カウンター・アタック 〜counter attack〜
著者:shauna


「申し上げます!敵は依然として進軍!しかし、その中に少女と思われる影は見られません!」
「報告!ケープシティにおいて、シルフィリアとアリエスと思われる重体を発見。現在軍の病院に収容中ですが、2人とも内蔵の損傷が著しく酷い為、現在魔法医を呼び寄せていますが、回復は絶望的と思われます。」
2つの報告を聞いてカーリアンの顔色は一層悪くなった。
「間違いないのか・・・。」
「間違いありません。」「ハイ。」
大事な友人が2人も・・・そう思うともう泣きたい気持ちが腹の底から込み上げてくる。でも・・・泣くわけにはいかない。何せ、今自分はここの指揮官として軍配を握っているのだから。
悲しむのはその後だ。それに状況は良くない。
なにしろ、敵はシルフィリアのせいでほとんど損害は出ていないだろう。すなわち、今の状況は味方はシルフィリアの猛攻に遭い、奇跡的に死者はまだ出ていないと言っても約半数に減って2500人前後。敵は未だ十万。状況は不利になったとしか言いようがない。
いくらこちらに城という名の要塞があるとしても攻略されるのはもはや時間の問題だろう。
「外に出ている兵士を全て城内に呼び戻せ。全員が戻り次第、橋を上げ、我々は籠城する。」
「しかし・・・我々はその後どうするのですか!?本日の舞踏会の影響で城内に食料はほとんどありません!!」
「それでも籠城せねば、国が滅ぶ!!グロリアーナ家がフェルトマリアとフィンハオランの殺害容疑で敵を殲滅するのを待つしかない。」
他人に国の運命を任せると言うのは気に入らないが今はこれしかない。圧倒的な軍の前にはこれしか方法が・・・。
カーリアンは辛そうに国王への報告へ向かった。



シルフィリアとアリエス両名相撃ちにより死亡の報告は場内を化巡った。
そして、その報告が東の塔に届くのにはそれほど時間は要さなかった。
一般市民の避難所が城の東側にある地下室にあるのに対し、王族や貴族の避難所はその地下室の上に建てられた塔の中にある。
この等の中に先程の作戦本部もあるわけで、つまり、ここが城の最終防衛ラインとなるわけだが・・・
その塔の最上階にミーティアとセレナは居た。
「ウソ・・・・そんなの嘘だよね!!」
死亡報告を聞いたミーティアが報告しにきた兵士に向かって掴みかかる。
「ほ・・ホントです。まだ死亡したわけではありませんが、世界でも有数の魔法医でも、回復は絶望的と見られ、現在、カルテより彼女らと親交のあったサーラ・クリスメントという魔法医に打診はしているのですが、何分、放浪癖の強い女性ゆえ、どこにいるか行方が分からず・・。」
「そんな・・・。」
「なら私が行きましょう!!」
―えっ!?―
ミーティアの後ろからセレナがはっきりと宣言した。
「私なら多少の回復術は使えます。彼女は死んではなりません。もっと、世界の楽しさを知ってほしい・・・。絶望の中で生きるのではなくって・・。もっと世界のおもしろさを・・・」



「敵主力部隊!!正門前に集結しました!!」
セレナの話を遮って兵士が駆け込み報告をする。
これで城から出る事も出来なくなった。
「それって・・」
城から出られない。こんな状況では刻の扉を使うことなど不可能に近いだろう。
つまり助けに行くことはもはやできなくなった。
2人は瞬間的に察する。シルフィリアとアリエスの死を・・・
途端にミーティアの目から涙がこぼれた。
「う・・・・うっ・・・ひっく・・・」
嗚咽交じりの声がミーティアの喉からこみ上げる。
 セレナがミーティアを優しく抱きよせた。
 「何故・・・・なんで・・・・あの2人が死ななきゃならないの!?」
 ミーティアが叫ぶ。
 それは葛藤だった。一体彼女達が何をしたと言うのか・・・拉致され監禁され、拷問され、望んでもいない手術をされ、利用され、殺されかけ、また利用され、また殺されかけ・・・そして、また利用されて・・・・その結果が知り合いとの同士討ち。
 こんなに悲しい物語があっていいはずがない。過去はどうあれ、シルフィリアは優しくて気高くて、アリエスは寡黙だけど喋れば明るくて・・・2人とも権力なんか全く鼻にかけなくて・・・
 それなのに・・・・・
 「お姉ちゃん!!何で!!あの2人!何かした!?悪いことした!?」
 セレナは黙って首を振る。
 どうしようもなかった。こればかりはどうしようも・・・・
 すべての物語がハッピーエンドというわけにはいかないことぐらい理解している。でも、この物語だけは絶対幸せに終わらなくてはならない・・・。
 そう思っていたのに・・・
 セレナの目からも自然と涙が零れた。
 「ミーティア・・・なんでかしらね。悪いこともなにもしてないのにね・・。せめて最後に・・仲直りしたかったのにね・・・。ハッピーエンドで終わらせたかったのにね。」
 















「終わらせますよ。」





 いきなり扉の方からした声に2人は驚いてそちらを見つめる。
 そこに立っていたのは・・
「ゆ!幽霊!!」
「失礼な。」「ちゃんと足あるよ。」「ウフンッ!」
シルフィリアとアリエスだった。ついでにあの筋肉オカマ自称ジュリエットちゃんも居る。

えっ?えぇ!!?・・・・

これは・・・ 
 「どういうこと?」
 「説明してる時間はありません。アリエス様とジュリオ様は至急、カーリアンの援護のため、作戦本部に向かってください。」
 2人は頷くなり、すぐにそれぞれの持ち場にむけて駆けだした。
 一人残ったシルフィリアがミーティアに向かって微笑みかける。
 ゆっくりと近づいてくるシルフィリアに足はしっかりとあった。
 どうやら幽霊というわけではないらしい。
 ミーティアの前でシルフィリアはしゃがみ、
「せっかくの綺麗なお顔が台無しですよ。」
服の袖でそっと彼女の涙を拭う。
そして・・。
「そこのエルフ・・・」
セレナの方にキッとした目線を向けた。
「あなたはエルフの誇りにかけて死ぬ気でミーティアを護りなさい。」
オドオドと暫くの間セレナは沈黙して怯えるように震えたが、やがて頷く。


「ねぇ、シルフィリア様。お姉ちゃんのこと・・・嫌い?」



ミーティアにしてはデリカシーの無い質問だが、どうしても聞いておきたかった。その問いに対しシルフィリアは、
「ええ・・大嫌いです。」
と冷ややかに返す。
「尖った耳を見るだけで本気で殺したくなります。あの地獄の4年間を味わった記憶は何があろうと忘れるつもりはありません。私はエルフが嫌いです。そして、それはハイエルフだろうがダークエルフだろうが変わることはありません。故に私はセレナが嫌いです。」
ミーティアはあぁ・・と唸りながら俯いた。
「シルフィリア様・・。どうしても・・ダメなの・・。どうしても許せない?」
シルフィリアは驚くほど静かな表情をする。
「何なら私がされた所業の数々を話しましょうか?まず、着ることが許されている物は夏にも冬にも薄い無地のワンピース1枚だけ。それ以外は下着もつけることは許されませんでした。そして、黒ミサですが、これは『神の苦痛を代わりに生贄が味わうことで神の苦痛を取り除く』という考えのもとに行われてまして、まず体を縛られて空中に吊り下げられた後、人間が大やけどで済む程度に熱した油をゆっくりと体に・・」
「わかった!!」
「拷問の後は魔法で綺麗な体に戻されるんですよ。次のミサに支障をきたさぬよう・・。」
「わかったから止めて!!」
「麻酔無しの魔道手術を受けた後は毎日毎日昼も夜も、失った左目から溶けた銅を流し込まれてるような暑さと痛みが切り裂くんですよ。どんなに逃げたくても左目を中心に続く途方もない痛みが・・・」
「止めて!!」
「ついでに殺され方も教えてあげましょう。1回目の戦争が終わった後は私の力を恐れたエルフ達は小さな箱に私を閉じ込め、私を作った研究所ごと私の体を爆破し・・・」
「止めて!!お願い!!」
「2回目は戦勝記念パーティーで初めて招かれたパーティーの席。」
「お願いだから・・止めて・・」
「始めて招待されて嬉しがってた私を会場全体のエルフが弓の的にして『彼女を殺すことができたらなんと黄金と領地がもらえまーす』なんてことを・・・」
「お願いもうやめて・・」
とうとう泣き出すミーティア。想像力が豊かだからこういうのには過剰に反応してしまう。
ひどいなんてもんじゃない。残酷にも程がある。
人をモノみたいに扱って挙句死ぬまでそんな・・・・・
「でも、私も一つだけ希望を持ってたんですよ。必ず父と母が助けに来てくれると・・・でも、ドラウエルフ達はそんな淡い希望を持つ私が放り込まれていた牢の前に殺した父と母の首を置いて『肉が食べたければこれを好きなだけ食べるといい』と言い残して高笑・・・」
「もうやめて!!」
ミーティアとは違う落ち着いた声。
大声で叫んだのはセレナだった。
「もうやめて・・・報いなら私が受けるから・・・ミーティアをこれ以上・・」
シルフィリアが目をやるとセレナの腕の中でミーティアが震えていた。
シルフィリアは「ここからもっとすごいのに・・」と言って溜息をついて話を止める。
これじゃあ到底無理だ。
とセレナの腕の中で震えるミーティアは理解した。
こんなことされて許せるはずがない。
自分だって、もし自分の牢屋の前にデュラハンとセレナの首が並べられて「さあ食べていいよ。」なんていわれたら・・・・・・
「ごめんなさい・・・」
ミーティアが静かに謝った。

しかし・・・

シルフィリアはそっと最後に
「まあそんなわけで、そこのエルフの事は殺したいし、死んだところでうれしいだけです。でも・・・。」
少し躊躇った後、シルフィリアは柔らかく付け足した。
「生きていることを否定しているわけではありません。」
―えっ!?―
シルフィリアは自分のレース状のローブを脱いでそっとセレナに渡した。
「2人で着ていなさい。その“ベストラ”を身に纏っていればあなた達はまず、この戦いで死ぬことはありません。それは伝説の宝具“ブリーストのローブ”に聖骸衣と同じ織り方を施し、糸にはヒヒイロカネを使い、同じような能力を再現したものです。全ての魔法はおろか、物理攻撃すらそのローブの前では無用の一撃と化すでしょう。絶対脱いではいけません。わかりましたね。」
2人は頷くと同時に身を寄せてそっとローブで身を隠した。
「あと、これも着けてください。」
シルフィリアはそう言って今度はローブを止めていたベルトを差し出した。
美しい菜の花色の長い帯のようなベルト・・・
「これは?」
セレナが問う。
「オルクリスト・・それを持っていれば、自分自身の姿を透明にしてくれます。姿が見えなければどんな強敵と言えど攻撃はできないでしょう?さて・・・」
シルフィリアは踵を返し、
「それでは・・・勝ってきましょうか?」
緩やかな足取りで部屋を出ていった。



東の塔の扉を開けて、外に出るとシルフィリアは静かに目を閉じた。
優しく地面を蹴る。
シルフィリアの体がフワリと浮いた。
そして、背中が緩やかに輝き出した。
ブワッと背中から展開したのは天使の如き真っ白な羽根だった。
しかし、それは2枚では無い。
一枚一枚の大きさが彼女の身長の5倍近くある大きさの羽根が背中から左右上方に4枚ずつ。腰から左右下方に3枚ずつ。
計14枚の羽根。
一枚一枚が超巨大でしかも大きさが異なっており、そのため遠目にみると蝶のようにすら見える。
それを一度大きく羽ばたき、シルフィリアが宙に舞い上がった。
―セイミー・・聞こえますか?―
―バッチリです。―
―ごめんなさい。お疲れの処、駆り出してしまって・・・―
念話を使って話す相手はセイミー。怪我をしていて疲労で寝ている中、手伝ってもらうのは流石に気が引けるが、この仕事を任せられる程高度で、尚且つ信頼できる魔法使いは現状で知る限りではセイミーしかいなかった。
それに対し、セイミーは―いえ、お気になさらずに。―と明るく返す。今から戦う為、若干シリアスになっていたのだが、こういう明るさがあると少し気が楽になる。
でも・・・今は、
―時間がありません。私と“刻の扉”の同調率はどうです?―
―現在78%・・82%・・85%・・・あと、10秒で臨界点です。―
―了解しました。―
シルフィリアはそのまま飛行して城の一番高い塔まで行き、塔の上にあった国旗の掲揚塔の先端に片足をスッと添えた。
―同期率は?―
―98%、99%・・100%。完了しました。コントロールシステムをシルフィリア様の杖“ヴァレリー・シルヴァン”に転送・・。転送完了しました。シルフィリア様。ユー ハヴァ コントロールです。杖を呼び出してください。―
―了解。I have a control。―
「アクシオ・ヴァレリー・シルヴァン!(来い。私の杖よ。)」
シルフィリアが唱えると同時にシルフィリアの手に真っ白な杖が出現する。身長の1.5倍程の長さに王冠と尖った十字架を先端に装飾した魔法の杖。シルフィリア専用のスタッフ型スペリオル。“ヴァレリー・シルヴァン”。
「杖の魔力と先程引いた魔法陣を同調・・・・・完了。杖の自動魔力制御・・正常。半径:5km。対象:範囲内の全ての人間及び魔法生物。転送先:エーフェ皇国旧皇都アトランディア・・・」
シルフィリアの杖が爆発的な光を放った。
「強制転移!!」
そう叫ぶなり、地面に巨大な魔法陣が出現する。
それは12の星座と七芒星の織りなす幾何学図形。不思議な文字や図柄が美しい真っ白に輝く陣形は緩やか且つ、複雑な回転をしながらシルフィリアの足もとに広がった。
光はさらに強くなり、辺り全体を巻き込む。
そして・・・








やがて光は消えた。






目の前に広がるのは先程までのスペリオル聖王国の城では無い。
そこにあったのはすべてが真っ白な城だった。
まるで雪化粧をしたかの如く白きその城は広い草原の中に異質ともいえるぐらい壮大に聳え立っていた。
但し、景色が変わったとはいえ、先程まで居た人達は変わらない。
だた、皆、自分の身に起こったことが分からなくてかなりうろたえているようだけれど・・・
先程まで門の前に居たクーデターの兵士達。城の中で必死に守りを固める兵士達。東の塔に未だ非難を続ける市民達。
場所は違えど、人がいた配置はまったく同じ。
シルフィリアがそれを見てニヤリと微笑んだ。



作戦は成功だ。



「フェルトマリア!!どうなっている!?」
シルフィリアが作戦本部に着くなり怒鳴りこんだのは他でもないカーリアンだった。
「私の魔力を“刻の扉”と同調させて半径2km四方にいた人間を全て旧エーフェの皇都に強制転移しました。これで市街には被害を与えず、闘うことができます。」
「そうではない!!何故生きている!?お前もアリエスも重体でいつ死んでもおかしくはないという報告を受けているぞ!!
「カーリアン。その話はまた後にしましょう。今はとにかく時間がありません。」
―セイミー・・・―
念話を使い、シルフィリアはセイミーを呼び出した。
―はい。なんでしょう?―
―もう一度、“刻の扉”を使っての転移の準備をしておいてください。―
―了解しました。―
「現在の状況を教えて下さい。」
「・・・ついてこい。」
カーリアンの導きでシルフィリアが本部の奥へと進む。通されたのは地図の前だった。スペリオル聖王国の城とその周辺の大きな地図の上に凸型の置物が合計100個前後置かれている。内訳は城の中に青の凸が3つ程。残りは城の外で赤が大量にある。
「一個が約1000人だと考えてくれればいい。」
カーリアンが長い指揮棒を使って説明を始める。
「フェルトマリア。城の状況はわかるか?」
「建物自体の面積はこちらの方が大きいですが、外壁自体の大きさはあなた方の城とさして変わりません。」
「なら、状況はほとんどこの地図と同じと考えていいな。」
シルフィリアが頷いた。
「現在、敵は東に本陣を置き、城を取り囲むように陣取っている。数はほとんどが東だ。東に7万。北に1万8千。南に1万。残りの2000前後が後庭園のある西に居る。」
シルフィリアが地図を見つめた。
「なんとしてもこの戦には勝たねばならん。しかし、敵の総数では圧倒的に不利だ。どうしてもこの差は埋まらん。」
カーリアンの顔が苦渋に歪む。
「フェルトマリア。なんとかできんか?」
「なぜ私に?」
シルフィリアが静かに返す。
「私にはどうにもできんからだ。」
プライドも体裁も捨ててカーリアンが頭を下げた。
「頼む。あなたなら何とかできるはずだ。私を・・私の国を救ってくれ!」
シルフィリアはカーリアンから地図に目線を戻す。
「カーリアン。兵士を500人程貸してください。」
「好きに使ってくれてかまわない。」
「了解・・・・。作戦を説明します。カーリアンあなたは2000の兵を率いて西の敵の掃討に向かってください。」
「西だけでいいのか?」
「ええ・・東は私がなんとかしましょう。同じく、北はアリエス様が。南はジュリエットに任せます。」
「まってたわぁ〜」
部屋の片隅からジュリオとアリエスが顔を出した。カーリアンが2人を見つめる。アリエスは怒ってるのか嬉しそうなのかよくわからない表情をしているが、ジュリオは楽しそうですらある。しかし・・・アリエスはいいとして、このオカマ・・本当に500の兵で1万を迎え撃てるのだろうか?
「アリエスは知っているが、横のオカマは誰だ?」
「オカマって言っちゃいや〜ん!」というジュリオの叫びを無視して、シルフィリアは地図に目を落としたまま、言う。
「ジュリオ・チェザーレ。城下のバーの店長です。」
「バーの店長だと!?」
「今度お店に来て〜ピュアな乙女達があなたを骨の髄までしゃぶり尽くしてサービスするわよ!!」
それを聞いてカーリアンが掴みかかりそうな勢いでシルフィリアに詰め寄った。
「ふざけるな!!こんな奴が一級の戦闘が出来るのか!?相手は自軍の20倍近いの数だぞ!!」


「ユリウス・カエサル・・。」


シルフィリアの口から出たその一言にカーリアンが固まった。
「何だと?」
「ジュリオ・チェザーレをあなた達の言葉で言ったまでです。元々古代語ですしね。」
「この男が・・・かのエーフェきっての大将帥ユリウス・カエサルだと言うのか!?」
「ええ・・・大丈夫ですよ。彼、二重人格でもう片方の人格の方はいろんな意味で最強ですから・・・信用できますか?」
確かにそれが本当なら凄いことだ。ユリウス・カエサル。某国ではジュリアス・シーザーと呼ばれることもあるが、彼はおそらく歴史上最も有名な将軍の一人だろう。ガリア戦争において、たった3日で劣性だった勝負に勝ち、敵の王を降伏させ調停を結んだり、南国の兄弟による王位継承権による争いを仲裁したりなど、伝説ともなっている将軍だ。しばらく前までは称号として宰相のことを“カエサル”と呼ぶ国すらあった程に・・。しかも歴史が正しければそのカエサルは誰もが恐れる圧倒的な攻撃をしたという。
それがすべて正しいとなれば今回の戦闘においてこれ以上心強い敵はいない。
でも・・・本当にこれがあのカエサルなのだろうか・・・?
「・・・悪いが・・。信用できない。事実は戦闘で確かめさせてもらう。それで良いか?」
「もちろんよ〜。サービスするわ〜・・。」
カーリアンの回答に対し、ジュリオはニヤ〜と邪悪な笑みを浮かべた。

「攻撃はまずあなた達が花火を上げて、それから東の空に私が花火を上げます。その花火を合図に全軍が門を開け、一斉に攻撃します。それでは各々方。お願いします。」
「畏まりました。」「シルフィーの仰せの儘に。」「わかったわ。」 
カーリアン、アリエス、ジュリオ、が一斉にそう叫んで頭を下げた。
反撃の始まりだった。
「なあ、フェルトマリア・・・・」
全員が出ていったところでカーリアンが珍しく気弱な声で聞く。
「何故、協力してくれるんだ?以前に聞いたお前の願う世界平和のためなら敵側についても問題はないだろう?」
その質問に対してシルフィリアは甘く微笑んだ。
「聖蒼貴族には膨大な権利と引き換えに世界の安定を護る義務があるんですよ。それに・・・」
シルフィリアが言葉を止める。カーリアンは「それに・・何だ?」と問おうとした。しかし、彼女の顔は一瞬にして絶句に変わった。
シルフィリアの頬笑みが妖艶なモノへと変わっていたのだ。
「それに・・・」
まるで甘美な蜜でも舐めているかのような嬉しそうな顔でシルフィリアは言う。
「戦争と狩猟は・・・貴族の義務であり、嗜みですよ・・」
狩り・・・・
その言葉の意味はすぐに理解できた。
そう・・・彼女にとってこの戦いは互いにつぶし合う戦争ではない・・。
一方的に殺す・・・
狩り・・・
カーリアンは再び思う・・・。怖い・・・この人だけは敵に回してはいけないと・・・・。



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